2013年 03月 31日
そういう時の為にひとつ原稿が用意してあったのを思い出しました。
ちょっと時期はズレますが投稿します。
宗先生が指導している横浜市の男声合唱団『メールクワイアAOBA』の会報に寄せた文章です。
『落葉松の林の中で』
毎年、晩秋になると思い出す情景があります。大学生の時、それまで家族旅行しか経験したことの無かった私が、初めて友人と二人で木曽路を歩いた時のことでした。
「木曽路はすべて山の中である。」
有名な藤村の『夜明け前』の名文に誘われて、私たちは夜行列車で中津川駅に降り立ち、木曽十一宿を南からたどり始めました。四泊五日を二人だけで旅する緊張感、山一面の紅葉、急峻な木曽川の流れ、宿場町の古風なたたずまい、江戸の昔からたくさんの人が行き来したであろう石畳の道・・・どれをとっても新鮮な体験で、いつに無く心が躍っていたことを覚えています。
馬篭宿、妻籠宿を過ぎて木曽路のほぼ中間に位置する木曽福島へ、そして私たちは、ここからいったん木曽路を離れて、開田高原に入る計画を立てていました。開田高原は、木曽御岳の麓に広がる標高約1500メートルの高原です。学生の身では民宿に泊まるのがせいぜいでしたが、それでも澄んだ空気はおいしく、出された食事も心のこもった物ばかりで、素晴らしい夜を過ごしました。
そして翌朝、林の小径を散策しながら、私たちは将来の夢やあこがれを語り合いました。彼女は子どもたちに音楽の楽しさを教えたいと、そして私は声楽家として舞台に立ちたいと。あたり一面の静寂の中に、私たちの笑い声と、踏み砕く霜柱のギシギシという音だけが響き渡ります。
そんな時、ピーンと張った冷たい空気を揺るがすように、さわやかな風が吹いて来ました。何気なく立ち止まって空を見上げると・・・何と空から金色の雨が降って来たのです。
「あ、落葉松だ!」
落葉松の葉は、朝の太陽を反射させて金色に光りながら、私たちの上に降り注いで来ました。まるで私たちの未来を祝福するように。
あの、言葉も忘れて落葉松の雨に打たれ続けていた晩秋の日の思い出は、お互いに夢をかなえて長年の人生を歩んできた今も、大切な宝物です。
昨年の秋、メールクワイアAOBAの第4回定期演奏会で小林秀雄先生作曲の『落葉松』を歌わせていただきました、しかもダンディーなオジサマ方の男声合唱と一緒に。その時の私の気持ちはお分かりいただけるでしょうか?歌いながら、あの落葉松の林の中の情景と、いままで音楽家としてまっすぐに突き進んで来た様々なシーンとが去来し、何とも言えない幸福感を味わっていました。
この機会を与えて下さったAOBAの皆様、宗先生に心から感謝しています。
メールクワイアAOBAのこれからの音楽活動にも金色の雨が降りますように。
以上ですが、あの~、みなさん『カラマツ』って読めてますよね?ラクヨウマツでは歌った時に字余りになってしまいますから。
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by izumihitori
| 2013-03-31 23:58
| ひとりごと